反歴史修正主義の流れがブレイクした2007年

今年はインターネット上における反歴史修正主義の流れが、はっきり言ってブレイクした一年といって良いように思う。


まず南京事件
南京事件に関しては、否定論者たちの主張に新味がまるでなく、ワンパターン化していることもあって、早くから否定論に対する厳しい反論が行われており、またその蓄積もあった。それが去年の夏「南京事件FAQ」という形で結実し、そのプロジェクトは現在も続いている。いまやネット上の南京事件論争で、否定論者が肯定論者のサイトを荒らすということはほぼ不可能になったといっても過言ではない。

また否定論の最後の砦東中野氏が裁判で「通常の研究者であれば矛盾を認識するはずで、原資料の解釈はおよそ妥当ではなく学問研究の成果に値しない」と断ぜられたのは、否定論衰退の象徴的な出来事であった。


次に従軍慰安婦論争。
この問題はアメリカでの決議に伴って再燃した、今年最大の盛り上がりを見せたものの一つである。しかしこれについても否定論はやはり底が割れてしまったと見るべきだろう。専門家や史料をきちんと読み込む力のある人たちが集まり、ネット上でも「南京事件FAQ」の洗練さはまだないものの、やはり否定論に対する反論の蓄積は、例えば「従軍慰安婦問題を論じる」を中心になされてきた。

逆に否定論は基礎知識の不足、何が論点になっているかすら正確に捉えられていない独りよがりなものがそのほとんどを占めている為、来年以降も彼らが勢いを取り戻すことはほぼ不可能であるだろう。


最後に沖縄戦での日本軍の強制による集団自決死論争。
否定派は沖縄での県民集会に11万人集まったか否かというどうでもいい点に力を注ぎ迷走した為、議論が少し錯綜した感は否めないが、文科省が主張した「強制はなかった」という新たな学説はついぞアカデミズムの世界から提示されることはなく、またそれに反論する為に結局沖縄戦の悲惨な状況が、より詳細に明らかにされるという結果をもたらした。教科書検定の結果については、個人的には肯定派の意見が全面的に取り入れられたとまでは言えないが、否定派の議論はほとんど受け入れられなかったということをもって、それなりの成果が齎されたと見るべきだろうと思う。


歴史修正主義のブレイクの原因の一つは言うまでもなく、安倍政権の存在であった。彼らが稚拙な議論を振りかざし、余計な騒動を巻き起こすことで、逆に一つ一つの議論が精緻化されるという効果を齎した。もちろん外交上は一時的に日本のイメージを相当悪化させてしまったわけだけれども、長い目で見れば、それはプラスに働くかもしれない。

今年がそのエポックメイキングであり、数年後にはネット上で安易に修正主義的言動をすること自体に冷ややかな目線が注がれるまでになれば今年被った損失も、必要なコストだったということになるだろう。